小規模企業共済は、個人事業主や一人社長が
将来の廃業・引退に備えながら節税もできる制度として
広く知られています。
しかし「どの税金に効くのか」を
正確に理解している方は意外と少ないです。
「国保も安くなるはず」「消費税も減るはず」と
思い込んでいる方もいれば、
逆に効果を過小評価している方もいます。
この記事では、小規模企業共済の掛金が
所得税・住民税・国民健康保険・消費税・事業税の
それぞれにどう影響するかを、一つずつ整理します。
小規模企業共済とは何か
小規模企業共済は、
国が用意した「個人事業主・中小企業経営者のための退職金制度」です。
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。
月々1,000円〜70,000円の範囲で掛金を設定し、
廃業・退職・死亡などの事由が生じたときに
積み立てた共済金を受け取れます。
最大の特徴は、掛金の全額が
「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になる点です。
年間最大84万円(月7万円×12か月)の所得控除を受けられます。
受け取り時も、一括受け取りなら退職所得扱いになるため、
税負担が比較的軽くなります。
「積立中も受取時も税優遇がある」点が
他の節税手段と比べた強みです。
所得税:掛金の分だけ税率をかけた額が節税になります
小規模企業共済の掛金は、
確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」として
所得控除に算入できます。
所得控除とは、課税所得を計算する前に
所得から差し引ける金額のことです。
掛金の分だけ課税される所得が減るため、
そこに所得税率をかけた分が節税になります。
たとえば年間掛金が36万円(月3万円)で、
所得税率が20%の場合、
36万円 × 20% = 7万2,000円の所得税が減ります。
所得税率は所得が高いほど高くなるため、
所得が多い方ほど節税効果が大きくなります。
所得税率が高い段階(330万円超〜695万円以下は20%、
695万円超〜900万円以下は23%など)にある方は
特に効果を実感しやすいです。
住民税:翌年の住民税も下がります
住民税も所得を基に計算されるため、
小規模企業共済の掛金控除による節税効果があります。
住民税の税率は、所得に関わらず一律10%です。
年間掛金36万円であれば、
36万円 × 10% = 3万6,000円の住民税が減る計算になります。
注意したいのは、住民税は「翌年分」に影響する点です。
今年の確定申告で所得控除を受けても、
住民税が下がるのは翌年6月以降の納付分になります。
「今年の節税が翌年に反映される」という時間差を
頭に入れておきましょう。
所得税と住民税を合わせると、
所得税率20%の方が月3万円を掛けた場合、
年間で約10万8,000円の節税になります。
これが小規模企業共済の節税効果の中心です。
国民健康保険:原則として保険料は下がりません
ここが最も誤解が多いポイントです。
「小規模企業共済で節税できる」という話を聞いて、
「国保の保険料も下がるはず」と思う方は多いです。
しかし、ほとんどの場合、国保の保険料には影響しません。
なぜでしょうか。
国民健康保険の保険料は、
「総所得金額等」を基に計算されるからです。
「総所得金額等」とは、
事業所得や給与所得などを合算したものであり、
所得税の計算で使う「所得控除」を引く前の金額です。
小規模企業共済等掛金控除は「所得控除」の一つであり、
「総所得金額等」そのものには影響しません。
つまり、小規模企業共済の掛金をいくら増やしても、
国保の算定基礎となる「総所得金額等」は変わらないため、
国保保険料は原則として下がりません。
ただし、計算方法は市区町村によって異なる部分もあります。
気になる場合はお住まいの市区町村の担当窓口に
確認されることをお勧めします。
消費税:関係ありません
消費税は、売上に係る消費税から
仕入れ・経費に係る消費税を引いた差額を納める税金です。
小規模企業共済の掛金は
消費税の課税対象となる取引ではないため、
消費税の計算にはまったく影響しません。
消費税の納税額を減らすには、
課税仕入れを増やすか、売上を下げるしかなく、
所得控除の仕組みとは別の話になります。
小規模企業共済で消費税が安くなることはありません。
個人事業税:こちらも関係ありません
個人事業税は、一定の事業を行う個人事業主に
都道府県が課す税金です。
税率は業種によって異なり、
多くの業種で3〜5%となっています。
個人事業税の計算は、
事業所得から「事業主控除(年290万円)」を引いた額に
税率をかける仕組みになっています。
ここで使われる「事業所得」は、
所得税の計算における「所得控除前」の事業所得です。
小規模企業共済等掛金控除は所得控除であり、
事業所得そのものを減らすわけではありません。
そのため、個人事業税の計算には影響せず、
節税効果はありません。
5つの税・保険料をまとめると
小規模企業共済の掛金による影響を整理すると、
以下のようになります。
所得税:節税効果あり。
掛金全額が所得控除となり、
所得税率に応じた額が節税になります。
住民税:節税効果あり。
翌年分の住民税が、掛金の10%分だけ下がります。
国民健康保険:原則として効果なし。
国保は所得控除前の総所得金額を基に計算するため、
掛金を増やしても保険料は下がりません。
消費税:効果なし。
消費税の計算とは無関係の制度です。
個人事業税:効果なし。
事業税は事業所得ベースで計算され、
所得控除は影響しません。
それでも小規模企業共済は活用する価値があります
「国保にも消費税にも効かないなら、
それほど魅力がないのでは」と思われるかもしれません。
しかし、所得税と住民税だけでも
毎年コンスタントに節税できる制度は多くありません。
さらに、受け取り時も退職所得扱いで税が軽くなる点や、
掛金を担保にした貸付制度がある点も
実務上のメリットとして知られています。
ただし、任意解約した場合は元本割れのリスクがあります。
「途中でやめるかもしれない」という状況での加入は
慎重に検討してください。
キャッシュフローに余裕がある状態で、
長期継続を前提に活用するのが基本です。
