イラストを描いて販売を始めた、ハンドメイド作品をネットで売り始めた、デザインの仕事を個人で受けるようになった。こういった形でじわじわと活動が始まるクリエイターは多いはずです。
「そろそろ開業届を出したほうがいいのかな」と気になりつつも、「いつ出せばいいのか分からない」まま時間が経ってしまうケースは珍しくありません。
この記事では、開業日の考え方と届出のタイミングについて整理します。
法人と個人では「事業開始日」の決まり方が違う
株式会社や合同会社などの法人は、法務局に登記した日が設立日として公的に記録されます。
「何年何月何日」とはっきり決まっており、曖昧さがありません。
一方、個人事業の場合は違います。「この日に開業した」という公式な記録がなく、自分が申告する開業日が事実上の開業日になります。
最初の販売日なのか、活動を本格化させた日なのか、SNSで告知した日なのかといった判断を、自分自身でしなければなりません。
この曖昧さが「開業届をいつ出すか」という問題をより難しくしています。
「気づいたら事業規模になっていた」が一番危ない
クリエイターに多いのが、こんなパターンです。
最初は趣味の延長でハンドメイド作品を販売していた。気がついたら月の売上が数十万円になっていた。
開業届も確定申告もしないまま、数年が経ってしまった。
このケースで税務調査が入ると、過去数年分の税金とペナルティーの税金などで、根こそぎ持っていかれることになります。
税務署は近年、SNSやネット販売の実績から事業の実態をつかむことができます。
届出や申告書が出ていない場合でも、税務署側が把握するルートは増えています。
税務署OBに聞いた「開業日」の実態
税務署のOB先生に話を聞く機会がありましたが、個人の開業日についての見解は、かなり曖昧な感覚でした。
「個人の開業日は、なかなかこの日と決めることが難しい。税務署側もそれは認識している」という話でした。
9月に開業したのか10月に開業したのかという1か月程度のずれは、開業直後で売上や所得の変動が小さい時期であれば、それほど大きな問題にはならないというニュアンスでした。
一方で「届出を出さない、申告をしない、何も出さないというのが一番の問題」とはっきり言っていました。
開業届はいつ出せばいいか?
開業届はいつ出せばいいか?
答えはシンプルで、「事業を始めようと思った時点」です。
最初のイベントに出店することを決めた日、最初の受注を受けた日、販売サイトに登録してアカウントを開設した日など、「これから活動を始める」と事業主がそう決意したタイミングが開業日になります。
開業届は、原則として開業から1か月以内に税務署へ提出することになっています。
出すのが遅れたからといって申告できなくなるわけではないので、まず出すことが大切です。
開業届を出した後、確定申告が必要とは限らない
「開業届を出したら、毎年必ず確定申告が必要になる?」と心配する方もいますが、そうではありません。
確定申告が必要になるのは、所得(売上から経費を引いた金額)が一定額を超えた場合です。
また、所得が基礎控除などの所得控除の合計額よりも少ない場合であれば、確定申告をしなくても構いません。
開業届を出した後でも、その年の売上や所得の計算をしてから申告が必要かどうかを判断することになります。
まず届出を出しておいて、その後の売上・所得の状況に応じて申告するかどうかを決める、という順番が実務的な取り扱いです。
初年度のみ赤字、2年目以降は黒字の見込みのような場合は、他の所得との損益通算や翌期への損失の繰り越しをするためにも確定申告しておくというのが良いかと思います。
開業届と一緒に出しておきたい届出
開業届を提出するタイミングで、セットで検討しておきたい届出があります。青色申告承認申請書です。
青色申告をすることで、65万円(10万円)の特別控除を受けられるほか、赤字を翌年以降3年間繰り越せます。
また、専従者給与の届出を出すことにより、要件を満たしていれば、家族への給与(青色専従者給与)を経費にできます。
青色申告の承認申請書などは、開業届と同時に提出するのがもっとも確実です。
開業から2か月以内に出さないとその年の青色申告が認められないため、タイミングを逃すと翌年度まで待つことになります。
最初の届出の機会を逃すと、そのまま出し忘れになるケースが非常に多いので注意してください。
帳簿の記録は青色・白色どちらが合っているか?
青色申告65万円をする場合は複式簿記での帳簿記録と電子申告が要件になります。会計ソフトを使えばそれほど難しくはありませんが、慣れるまで手間がかかります。
売上が少ない時期や、まだ事業として本格稼働していない段階であれば、白色申告でもかまいません。
白色申告は複式簿記ほど複雑ではありません。
もっとも避けたいのは、帳簿を一切つけないまま事業規模が大きくなってしまうことです。
何年分もの帳簿を後から作り直す作業は相当な負担になります。小さい規模のうちから記録をつける習慣をつけておくことをお勧めします。
まとめ:出すタイミングより「出す」ことが大切
開業日を厳密に決めることに悩みすぎて、届出を先送りにしてしまうのがもっとも良くないパターンです。
「いつ開業したか」よりも「届出や確定申告書を出しているか?出していないか?」のほうが税務署にとっては重要な判断基準です。
活動を始めたと思ったタイミングで、まず開業届を出す。
そのうえで売上・所得を集計し、確定申告が必要かどうかを判断する。
このシンプルな順番を守るだけで、後々の大きなリスクを避けることができます。
届出の書き方や青色申告の手続きについて不安があれば、税務署や税理士に相談してみてください。
