今年の令和3年の税理士試験の国税徴収法の最初の問題の解答範囲について、何やら5ちゃんねるで論争になっているようです。私なりにこの論争について検討してみようと思います。
なお、この書いた内容について、正しいかどうかの責任は一切持ちません。あくまでも、「私自身はこう思う」というだけの話ですので、あしからず。
令和3年国税徴収法 第一問 問1の内容について
議論となっている問題はこんな問題でした。
国税徴収法第 79 条は、差押えを解除しなければならない場合及び差押えを解除することができる場合の要件を定めたも のである 。そのうち、「差押えを解除することができる場合」について説明しなさい。
裁量解除について問われていますが、議論の問題となったのは、その解答範囲です。
①79条の原則3つのみを解答する
②79条の原則3つに加えて、換価の猶予、納税の猶予、保全差押、繰上保全差押、不服申立て の徴収法79条以外の規定(通則法も含む)まで解答する
①と②のどちらで解答したらいいのか?ということで議論となっています。
問題文の「そのうち」が直前の徴収法79条の差押解除を指していると考えれば、①の原則3つに限定されるという意見にも一定の理解ができます。
出題のポイントの内容について
では、国税庁から公表されている税理士試験の「出題のポイント」には何と書かれているのでしょうか?
出題のポイントは以下の通りです。
国税徴収法第79条は、差押えを解除しなければならない場合及び差押えを解除することができる場合の要件を規定したものであるところ、その効果については、差押えによる処分禁止の効力を将来に向かってのみ失わせるものである。
本問は、国税徴収手続において差し押さえた財産につき、「差押えを解除することができる場合」を問うものであり、「差押えを解除しなければならない場合」との違いについての正確な理解がポイントとなる。
・・・・いまいちハッキリしません。
次に、税務大学で使用されている税大講本を確認してみます。
税大講本とは国税庁から出ている国税徴収法に関する情報が載っている数少ない資料です。
その税大講本には何と書かれているのでしょうか?
税大校本令和3年国税徴収法45ページには、以下の通り記載されています。(見やすくするために、改行と色付けをしています)
第4節 差押えの解除
滞納者が差押えに係る国税を完納した場合等には、差押えを解除しなければならない。
1 差押えを解除する場合
差押えの解除は、差押えの効力を将来に向かって失わせる処分である。解除の要件は次のとおりである。
⑴ 差押えを解除しなければならない場合(絶対解除)
① 納付、還付金などの充当、更正の取消しその他の理由により差押国税の全額が消
滅したとき(徴79①一)。
② 差押財産の価額が、その差押国税に優先する他の国税、地方税その他の債権の合
計額を超える見込みがなくなったとき(徴79①二)。
③ 滞納処分の停止をしたとき(徴153③)。
⑵ 差押えを解除することができる場合(裁量解除)
① 差押えに係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消し、差押財産の値上がりその他の理由により、その財産の価額が差押えに係る国税及びこれに優先する他の国税、地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至ったとき(徴79②一)。
② 滞納者が他に差し押さえることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押さえたとき(徴79②二)。
③ 差押財産について、3回公売に付しても入札等がなかった場合において、その差押財産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売に付しても買受人がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるとき(徴79②三)。
④ 換価の猶予をする場合において、事業の継続、生活の維持のために必要があると認めるとき(徴152②)。
⑤ 納税の猶予の許可を受けた者から差押解除の申請があり、その申請を相当と認めるとき(通48②)。
税大講本の「差押えの解除は、差押えの効力を将来に向かって失わせる処分である。 」という文章をどこかで見かけませんでしたか?
そうです、出題のポイントの差押解除の「その効果については、差押えによる処分禁止の効力を将来に向かってのみ失わせるものである。 」と非常によく似ています。
似てるというか、ほぼ丸パクリです。
この議論の対象となった本試験問題の元ネタは税大講本ではないでしょうか?
税大講本の裁量解除には、79条原則3つに加えて、換価の猶予、さらに国税通則法の納税の猶予まで記載されています。国税徴収法の講本であるのに、国税通則法の範囲の納税の猶予の部分まで書かれています。
国税通則法の講本は国税徴収法の講本とはまた別にあります。
ということは、国税庁としては徴収手続の裁量解除について、国税徴収法も国税通則法も一緒に合わせて考えているということではないのでしょうか?
原則3つに限定されるという主張に対して
国税庁の職員が実務をするうえで、厳密に「これは徴収法の規定、これは通則法の規定」と考えを分けていないと思います。両方セットで考えていると思います。
国税徴収法の試験範囲には国税通則法も含まれると明記されています。
それに、この裁量解除の問題(専門学校で出題される場合)は「数多くのタイトル挙げを漏れなく挙げられるか?」というのがミソです。
もし、正解が①原則3つのみであった場合、
採点者は①の原則3つのみの解答を「原則79条3つだけを正しく書いてきたな、通則法などの原則以外の裁量解除を正しく除外できているな」と考えます。②の解答した答案は「原則3つ以外の余計な規定まで書いているが、原則3つは解答している。バツはつけにくいので、部分点を付けておこう」と考えるかもしれません。
(原則3つ以外の余計なものを書いたとして減点される可能性は低いと考えられます。余計なものは単に採点しないだけだと思います。)
逆に正解が②通則法なども含む場合は、
採点者は①の解答について、「原則3つ以外の裁量解除は知らないのか、裁量解除の理解不足だな」と考えるでしょう。②の解答については、「タイトル挙げが漏れなく挙がっている、裁量解除の内容をよく理解している」と判断するはずです。
先程書いた通り、裁量解除の問題はタイトル挙げが漏れなくできているのかがポイントとなります。
5チャンネルでも「②が正解と思わせといて、実は①が正解。②で解答した受験者を落とすひっかけ問題である」という意見がありました。
確かにその様に問題を読むことができますが、もし正解が②だった場合、原則3つのみの①の解答では致命的な減点になります。
正解が①か②かはっきりと分からない問題に対して、①の解答項目数が少ない解答をするのは、ギャンブルに近い気がします。
私なら区分して全部書いてアピールする
先程も書きましたが、正解も含む余計なものを書いた答案 と 正解を部分的にしか書いていない答案 であれば、どちらが点数がいいのかと言えば、恐らく前者だと思います。
では、私が受験生だったら、この問題にどう対応したか?
迷ったら、全部書きます。ただし、区分して書きます。
国税徴収法に規定する裁量解除
⑴原則①無益な差押え②本人からの差押可能財産の提供③3回公売に付しても~
⑵換価の猶予
⑶保全差押え
国税通則法に規定する裁量解除
⑴納税の猶予
⑵繰上保全差押え
⑶不服申立て
こんな感じで書けばどうでしょうか?
原則3つのみを書いただけで「原則3つに絞り込めている」アピールは無理です。
単に原則3つだけを書いてただけでは、「本当に原則3つに絞り込んでいるのか?単に理解していない(覚えていない)のか?」の判断がつきません。
確かにどちらとも取れる問題文自体に不備があるのは確かです。
ですが、この様に区分して②の解答を書けば、
「私は国税徴収法の裁量差押も国税通則法の裁量差押も知っていますよ」と試験委員にアピールできます。
この様に書けば、正解が①と②のどちらの場合であっても点数が付きます。試験委員はバツは絶対にできないはずです。
①の原則3つに絞った人の中には「原則3つ以外を書いたら他の問題の解答時間が足りなくなるので、原則3つ以外を書いていない。」という人もいたようです。
時間が足りなさそうと判断したのなら、原則3つ以外はタイトルだけでも書いておけばアピールできます。
タイトルのみの解答は専門学校では点数はつきませんが、本試験では絶対に加点されているはずです。
タイトルのみ書くのなら、1分も掛かりません。「すぐに書けたはずなのに何故書いていないのか?」と私は思ってしまいます。
本試験では解答用紙に書いた内容が全てです。その受験生の模試の点数を試験委員は知りません。後で解答内容についての質問もありません。
「解っていたのに書かなかった」は「解っていない」と同じです。たとえ、正解が解っていても、解答の書き方に問題があり、試験委員が解答用紙を見て「この受験者は解っていない」と判断すれば、それまでです。
字を丁寧に書く、タイトルの文字はよりはっきりと書く、段落を揃える等々解答用紙の書き方も重要ですが、何よりもこの「知ってます!解ってます!」アピールが一番重要です。
国税徴収法の合格ラインにいる受験生の知識量は大差無いと思います。上位10数%の受験生は
「理論全暗記+テキスト内容完全理解」+α(図解シリーズや通達集も目を通している)
の状態だと思います。
試験委員から見て「キラリと光る答案(この受験生は国税徴収法を解っているな!)」と思わせるための工夫(今回の問題であれば、区分して全部書く)に努力を惜しんだらダメです。
特に国税徴収法は他の税法科目と異なり、この解答の表現方法を一工夫しないといけない科目だと思います。
単に暗記した規定を雑然と書くのではなく、結論に向かって理路整然と書く、分厚く丁寧に書く部分とサラっと省略して書く部分をメリハリをつけて書く・・・
税法免除の論文と同じです。
もう受験生ではありませんので、本試験問題の不備についてはやや他人事になってしまいましたが、令和3年の本試験問題の不備を見て、私自身が思ったことを延々と書きました。