長年税理士事務所の仕事をしていると、名義人と実際の持ち主が異なるケースを見かけます。本人はそれほど気にされていませんが、税務上は大きな問題が発生しているという場合があります。今回は名義人と実際の持ち主が異なる場合の税務上の問題について、いくつかの具体例を用いて説明しようと思います。
夫が買った車を妻の名義にしたら?
ある財産について、名義人と実際の持ち主(本来の正しい持ち主)が異なるというのは、本来はあり得ない話です。
財産を買うときの出資者(お金を払った人)がその財産の持ち主であり、財産の名義人です。
ある夫婦がいたとして、その夫が車を買った場合、その車の名義人は夫です、決して妻の持ち物ではありません、当たり前の話です。
では、夫が車を買って、その車を妻名義にした……これはどうでしょうか? みなさんは特に違和感はありませんか?
この場合、夫から妻へ贈与が発生しています。
夫から車を買うお金を妻へ贈与し、妻はその贈与を受けたお金で車を買ったというのが、税法の考え方です。
(あるいは、夫が車を買って、すぐに妻に車を贈与した……結局現金の贈与と同じ意味になりますが)
この車の代金が贈与税の基礎控除110万円を超える場合、その超える部分が贈与税の課税対象となります。
夫と妻の関係が祖父と孫の関係でも同じです。可愛い孫に高額のプレゼントをすると贈与税がかかってしまいます。
では、妻がよく乗る車を夫のお金で買う場合、どうすればいいのでしょうか?
難しいことはありません、夫名義で買った車を妻に貸せばよいのです。ごく当たり前の話で、ほとんどのご家族はこの様にされているはずです。
祖父と孫の関係でも同じです。祖父名義で買った車を孫に貸せばよいのです。
会社で息子名義の車を買って、その車を会社で使用したら?
社長が会社のお金で大学生の息子名義の車を買って、その車を仕事用で使っていた場合はどうでしょうか?
この場合、仕事用として会社で使っていたとしても、大学生の息子名義の車であれば、税務調査の調査官によっては「会社と関係のない息子さんが車を使用しているのでは?」という指摘を受ける可能性もあります。
息子が大学生なので、会社の事業とは関係ありません。
ですので、税務上の問題点として、大学生の息子が個人的に使用していたと判断された部分(事業と関係ない部分、例えば1~2割)の各経費(その車両の減価償却費、ガソリン代、保険代など)が会社の経費として認められない可能性があります。
車の種類、車の実際の使用状況、税務調査の際に調査官がどう判断するかにもよりますが、会社名義の車ではないというだけで、この様な判断をされる危険性を含んでしまうということです。
会社の車は必ず会社の名義にしてください。
会社の車両の名義人が会社となっていないケースは以外と多いです。特に法人成りした後で、保険等級の関係で会社の車を個人名義で買われる方がいます。一定の要件を満たせば保険等級の引継ぎは可能ですので、会社で使用する車は、必ず会社名義で購入してください。(保険等級の引継ぎについての詳細として、三井ダイレクト損保のホームページをご覧ください。)
親の不動産家賃の振込先を子供名義の口座にしたら?
親が不動産を持っており、その不動産の家賃収入を子供の生活費の援助に充てるため、家賃振込先を子供の預金口座としている場合はどうでしょうか?
不動産は親が持っているため、その不動産の家賃収入は親に帰属し、家賃収入は親の口座に振り込まれるのが通常の取引です。
ですので、税務上は、家賃収入が一旦親の口座に振り込まれた後、すぐに親の口座から子供の口座へ資金が移動したものとして、贈与が発生していると考えます。
親の家賃収入が最終的には子供へ渡っているという点は、同じですが、税法では贈与があったと考えます。
では、このケースではどうすればいいのでしょうか?
このケースも他のケースと同じです。家賃収入の振込先口座を本来の親の口座にすればいいのです。
家賃収入が親の口座に入った後に、子供に生活費の援助として、子供の口座へ振り込みすればいいのです。(生活費の援助としての金額を超える部分の金額は贈与と扱われますので、注意してください。)
財産は出資者に帰属する
いくつかの具体例を見てきましたが、どの具体例にも共通するのは、
「普通はそんなことをしない」という点です。
夫が買った車なら、夫名義の車。会社が買った車なら、会社名義の車。親の不動産収入は親の口座に入金する。
ごく当たり前の話です。財産は出資者(買った人)に帰属します。財産から生じた収入は、その財産の持ち主に帰属します。
具体例以外にも名義人と実際の持ち主が違うケースは沢山あると思います。
「うちの会社(お店)の資産のが○○名義になったままだけど、大丈夫かな?」と思った方は、顧問税理士に相談してください。顧問税理士がおらず、相談する人がいない方は下記の問い合わせフォームよりお問い合わせください。