税理士事務所で働いていると「現金残高が合いません」という話をよく聞きます。どんなに気を付けていても現金が合わなくなるときがあります。本日は現金残高が合わないことについて、私自身が思うところを色々書こうと思います。
現金残高を合わす方が難しい
業種業態や現金管理者の有無によって現金残高の管理の難易度は変わります。
特に飲食店などの毎日現金売上と現金仕入が発生し、現金取引の回数が多い業種では現金残高を合わすために多くの時間を要します。
税理士として顧問先の現金科目をチェックしていますが、飲食店や小売店の業種では月に数回程度、現金残高が合わないケースを見かけます。
現金残高が合わない状態とは、
現金の帳簿上(計算上)の金額 と 実際の現金残高(紙幣と硬貨を数えた合計)が一致しない状態です。
(勿論一致しない原因を調べてもなお、金額が一致しない場合の話です。まずは原因究明です。)
この場合、必ず実際の現金残高(実際にレジに残っている紙幣と硬貨)の金額に帳簿上の金額を合わしてください。
帳簿上(計算上)の現金残高 50,000円、 実際の現金残高 49,500円 であれば、帳簿上の現金残高を500円減らして、49,500円にします。(相手科目は現金過不足です。消費税は対象外、不課税取引)
仕訳で言うと、 現金過不足 / 現金 500円 です。
間違っても帳簿上の50,000円に実際現金残高を合わせるために、ポケットマネーで500円を足したりしないでください。
現金に関して実際にあったトラブル
この税理士事務所業界の仕事をしていると、現金に関するトラブルを色々見たり、聞いたりします。
ある会社では、現金の盗難被害に遭いました。社長が現金数十万円の入った封筒を車の助手席に置いたまま、車のカギをロックせずにコンビニの駐車場に停車、数分後に戻ると、その封筒だけ無くなっていそうです。
被害届を出しましたが、結局現金は戻ってきませんでした。
また、別の会社で銀行への積立係が毎月の積立金を着服していたという話も聞きました。積立金の残高は預金残高と違って毎月残高確認することが少ないですが、決算時には残高確認するので、後で必ずバレます。
……何故そんなバレることをしたのでしょうか?
現金には何かとトラブルが付きまといます。
現金の管理が難しい原因
現金の管理が難しい原因の一つに、硬貨や紙幣の数え間違いがあります。
レジ現金の出し入れ時に50円玉と100円玉を見間違ったり、千円札の数え間違いなど、特に飲食店のランチ時間等の忙しい時間帯では現金の数え間違いが発生しやすくなります。全自動でお釣りが出るレジを採用しない限り、どんなに気を付けていても現金数え間違いのミスは無くなりません。
また、レジ現金以外の現金(小口現金)については、業務用の財布と家事用(プライベート用)の財布が同じという場合が多いです。
財布が同じであれば、業務用のお金の出し入れとプライベート用のお金の出し入れが混じります。会社から預かった小口現金から、プライベート用の買い物をして、家の通帳から引き出したお金をその財布に入れて……数日も経てば、もう小口現金の残高は把握できません。
本来は両者を完全に分けるべきですが、業務用の財布とプライベート用の財布を2つ持ち歩くのはとても面倒です。そもそも2つの財布を持ち歩くのは現実的ではありません。
そして、出納帳を付けることも面倒な作業です。
私は毎朝スマホで家計簿を入力していますが、税理士事務所の仕事をしている私でさえ、時々面倒だと感じるときがあります。(支払はほぼクレジットカードかICOCAなどのキャッシュレス決済なので、現金残高自体を管理する必要はありませんが、支払使途と各費用の金額把握のために毎日スマホ入力で記録しています。)
事業用の出納帳であれば、お金の出入りの回数はプライベートと比べて相当多くなります。専任の経理担当者でもいない限り、余程習慣づけしていないと毎日現金出納帳を付けることは難しいです。
現金の最大のデメリットは、記録しないと入出金の形跡が残らないということです。
この入出金の形跡が残らないという点が現金残高の管理を難しくしています。
預金では通帳やネットバンキング画面により、取引ごとの入出金額や残高を確認できます。クレジットカード明細でも日付、店名、金額は確認できます。(商品名までは確認できないので、その点はカード決済の都度、支払内容を記録しておく必要あり)
ところが、現金にはこの様な確認できる資料が一切ありません。ですので、現金出納帳を付けて記録するしかないのです。税務調査でも記録が無いというのは致命傷です。出納帳という記録の証拠が無い状態で、税務署に対して取引の正当性を立証するのは至難の業です。
現金取引を無くさない限り、現金管理から逃れられない
現金を扱う取引がある限り、現金過不足が発生し、現金出納帳の記入などの現金管理業務を無くすことは不可能です。
小売店や飲食店などの現金決済が比較的多い業種でも、近年はキャッシュレス決済が浸透しつつあります。完全に現金取引を無くすことはできなくても、現金を扱う件数自体を減らすことはできます。
全て預金やクレジットで決済すれば、必ず取引履歴は残ります。しかも、預金のネットバンキングデータやクレジットカード決済データを会計ソフトに取り込めば、会計処理の効率化にも繋がります。
経理専任者がいない小規模の会社や個人商店では、経理事務以外にもやらなくてはならない本業の仕事が沢山あります。
経理処理はできるだけ合理化して短時間で済ませた方が、本業の仕事により多くの時間を投入できます。
長年おこなってきた現金取引を無くしたり減らしたしすることは、最初は抵抗があると思いますが、上記の様なメリットも沢山ありますので、できる部分から少しずつ現金取引を減らしていくことをお勧めします。