2022年1月から国税徴収法を勉強されている方もいると思いますが、国税徴収法1条をしっかりと理解していないと本試験では間違った判断をしてしまいます。今回は令和2年の本試験問題を題材として、私なりの国税徴収法本試験で何が問われているのか?という事を書こうと思います。
国税徴収法1条では次のように規定されています。
この法律は、国税の滞納処分その他の徴収に関する手続の執行について必要な事項を定め、私法秩序との調整を図りつつ、国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする。
上記の通り、国税徴収法では「国税収入を確保することを目的」と規定しています。
当たり前の話ですが、国税徴収法は国税を徴収することを目的としている法律です。
この当たり前の事が勉強を進めて行くとつい忘れがちになります。
各規定の細かい部分ばかりが気になってしまい、「木を見て森をみず」の状態のなっている受験生もいるかもしれません。この状態になってしまうと、本試験でどういう判断をしてしまうかというのを、次のブロック以降で書いていきます。
令和2年本試験の最後の事例問題について
昨年の令和2年の最後の問題について解説します。私が合格したときの本試験問題です。
まず前提となる設例です。
小売業を営む納税者Aは、平成 30 年分の申告所得税の修正申告書(納税額 150 万円)を令和元年 11 月 30 日にY税務署長に提出したが、現在、Aは当面必要な事業資金以外に50万円しかなく、残額については即時に納付することが困難な状況であった。なお、Aは、修正申告書を提出した時点において、上記修正申告分以外の国税の滞納はない。また、Aは、自宅兼事業所である不動産(評価額500万円)を所有している。
次に設例に対する問2の問題です。
納税者Aは、令和元年12月1日から令和2年4月30日まで、国税徴収法上の措置に基づき、毎月末20万円の分割納付をすることとなった。Aは、令和2年2月分までは順調に分割納付を行っていたものの、令和2年3月5日、突如、取引先Bが倒産したため、取引先Bに対する売掛金の回収ができなくなった。
Aは、令和元年分の申告所得税の確定申告書(納税額30万円)を令和2年3月16日に提出したが、上記売掛金の回収不能により即時の納付が困難であり、納税額全額について、確定申告書の提出と一緒に換価の猶予を申請した(申請書の記載に不備はなく、添付書類の不足もない。)。Aは、令和2年3月以降の納付資金は、毎月末10万円が精一杯の状況であるところ、まずは、平成 30 年分の申告所得税( 修正分)の残額を分割納付し、その後、令和元年分の申告所得税(確定分)について、引き続き、分割納付したいと考えている 。
この場合において、Y税務署長がとるべき措置について、理由を付して答えなさい。 なお、令和2年分の予定納税については、考慮する必要ない。
問題資料には色々書いてますが、要は納税者Aが
「分割納付してたけど、取引先倒産による資金ショートで今まで通り納付できません。頑張って納付するので何とかなりませんか?」
と言ってきたら、あなたは税務署長の立場としてどういう手続きを取りますか? という話です。
この話を国税徴収法を全く知らない一般人に聞いたら、どう答えると思いますか?
「何とか頑張って納めるのなら、期限を延ばしてでも納めさせるのがいいんじゃないかなぁ」
こんな答えが大半だと思います。普通はそう考えますよね?
専門学校の模範解答も分割納付の期限延長、各分割納付額の金額変更などです。
ところが、当時の本試験では、大原受験生の一部は分割納付の期限延長は出来ないという方向で解答したそうです。
別の予備校の解答速報でも見当はずれの模範解答を出した学校があったみたいです。
その原因が大原の理サブの文章(換価の猶予申請、分割納付期限変更申請の要件)の一部がこんな感じでした。(手元に教材がないのでニュアンスで書いていますので、あしからず。)
「この申請に係る国税以外の滞納がないこと」
一方で条文内容を正確に反映さえると、本来はこんな感じになるはずです。
「この申請に係る国税以外の滞納がないこと(納税の猶予又は換価の猶予の適用を受ける国税を除く)」
当時の大原の教材では( )書きの部分を何故か教材に記載しませんでした。省略されています。
ですので、その大原生の一部は「他に滞納税金があったら、分割納付の期限延長はできない」と判断したようです。
確かに重要な要件部分である( )書き部分を省略している教材は少し問題ですが、先程書いた一般人の感覚からすると、分割納付出来ないという解答はどう考えてもおかしいです。
繰り返しになりますが、国税徴収法では国税を徴収するために、この法律が規定されているという事です。
ですので、今回の令和2年本試験事例問題2の場合、事例の状況からすると、無理矢理差押えするよりも、分割納付期限の延長をした方が、結果として国税を全額回収出来る可能性が高いのは明らかです。
(私はTACの教材や図解シリーズなどで、納税猶予や換価猶予中の滞納税金は問題無いという事は知っていたので、分割納付期限延長などの解答は出来ましたが。)
国税徴収法は国税を徴収するための法律である
「法律は当たり前のことを、ものすごく難しく書いている」
この言葉は、私が通っていた大学院の先生が述べられた言葉です。法律の条文、特に税法の条文はかなり難しい言い回しです。国税徴収法の条文も同じです。ですが、先程の先生の言葉の通り、「当たり前のことを、ものすごく難しく書いてる」だけなのです。換価の猶予の条文も堅苦しい文言が続きますが、書いている内容は、ごく当たり前の事ばかりです。
一部の大原生の答えだと、頑張ってなんとか納付しますと言ってる納税者に「期限延長できない」と税務署が冷たく突っぱねる事になりますよ。税務署サイドの対応としておかしいですよね?
「国税を全額徴収するにはどうすればいいか?」
徴収方途というやつです。この徴収方途の方法選択では国税徴収法のセンスが問われます。
今回の本試験の問題では、多少遅れてでも国税を徴収できそうです。
反対に、過去の本試験で出題された猶予期間中に フィギアやバイクを買ってる場合は、急いで徴収しないとマズいので、即刻猶予取消です。
大原テキストで重要な括弧書きが抜けてたという点は確かに問題だと思いますが、それだけで猶予取消を選択するのは、徴収法の本質を捉えきれていないと思います。
理サブの字面しか見えていない、木を見て森を見ずの状態です。
徴収法はロジックがしっかりしているが故に、暗記一辺倒では対応できません。
趣旨や理由を合わせて理解していないと検討はずれの解答になってしまいます。今回の令和2年本試験事例問題は国税徴収法のセンスを問う良い問題だと個人的には思います。(この年に合格したのもありますが)
テキストの解説が重要です。何度も言いますが、理サブの暗記のみは絶対ダメです。
おまけ 謎の自宅兼事務所の不動産の資料??
この令和2年本試験問題の前提部分にまた書きの資料として、
「また、Aは、自宅兼事業所である不動産(評価額500万円)を所有している。」
と書かれています。
事務所の不動産が資料で載っている理由がナゾです。各予備校の模範解答にもこの不動産財産に関する記述は見当たりません。
仮に猶予取消と判断した場合は、不動産差押えを選択させる様に引っ掛けの資料として載せたのでは?と個人的に思います。
自宅兼事務所ということは自宅と事務所は不可分の財産であり、小売業を経営する滞納者Aにとって、小売店舗の不動産財産は事業上欠かすことのできない財産に該当するため、差押え禁止財産になるのでは? と言う趣旨の話を私は答案用紙に書いてきました。合否に影響したかどうかは定かではありませんが。
真相を知っているのは、この本試験問題の作成者のみです。