「専従者給与の金額をいくらに設定するか?」という問題、どこにも正解は書いていないので、非常に悩ましい問題です。一般的には社会通念上という話ですが、そうは言っても結局どれくらいが適正なのか?を知りたいとことです。
今回は専従者給与の設定額について書きます。
専従者給与って何?
専従者とは個人事業主の配偶者(妻か夫)、子供、親などの親族で生計を一にしている(寝食をともにしている)人のことです。家族でお店を経営しているようなイメージです。
株式会社のような法人は対象外です。同居していない親族(たとえば別の場所に住んでいて、日中に仕事を手伝いしている)も対象外です。
その他細かい条件もありますので、詳しくは国税庁HPのタックスアンサーをご覧ください。
この専従者に対して支払う給与は、原則は経費になりません。
ただし、届出をすることによって、事業主の経費にすることができます。もちろん受け取り側は給与所得になります。
【大前提】専従者給与届出が必要
顧問税理士がいないと意外と見落としがちな部分ですが、そもそも専従者給与の届出をしていないといけません。開業直後は忙しくて税務署への届出を出し忘れている方も多いです。
この専従者給与もですが、青色申告承認申請書も出すか?出さないか?で税額が大きく変わってきますので、開業届出セットとして必ず届出してください。
届出額の具体例
専従者給与届出の中に月額や賞与を記載する箇所がありますが、この部分の金額が限度額となります。届出額の範囲内なら認められるので、この届出額を超える金額を支給した場合、超える部分は専従者給与として認められません。
届出額の変更は可能ですが、また改めて変更届出をしないといけないので、開業当初で専従者給与の金額を決めきれない場合は、少し余裕をもって届出額を記載しておくと良いです。
逆に届出額を下回る場合は特に問題ありません。また法人(会社)のように定期同額給与(毎月の報酬を一定額にしないといけない)のような規定も、所得税法にはありませんので、届出額の範囲内であれば、毎月の専従者給与の金額は上下しても問題ありません。
少し余裕をもって届出額を記載と書きましたが、常識の範囲を明らかに超えるような金額は問題です。たとえば、事務経理の仕事をする妻の専従者給与の届出額を月額100万円とした場合はどうでしょうか?
一般的な経理事務員に月額100万円を払う中小企業は、おそらくないはずです。明らかに高過ぎます。
この届出額は事業主の所得や事業規模によっても変わってきますが、専従者の仕事が一般的な経理事務のみということであれば、月額20~30万ぐらいが届出の上限額として妥当なところではないでしょうか?
2025年10月から大阪の最低賃金は時給1,177円になります。
仮に最低賃金よりも少し上げて時給1,500円として、1,500円×6時間×20日=18万円となります。
時給2,000円であれば、2,000円×6時間×20日=24万円
これに残業代や深夜残業代(午後10時以降)、休日出勤代がつくようなケースも個人事業主の専従者という立場であれば多いと思います。割り増し計算していくと、どうでしょうか?
先ほどの届出額上限の月額20~30万ぐらいという金額は、第三者に支給する金額と大きくは乖離しておらず、社会通念上、妥当な範囲内の届出額だと私個人的には考えています。
賞与についても同じです。
専従者給与を実際にいくら支給するか?
届出額の上限は決まりましたので、次は実際の支給額についてです。
専従者、「従」の従うという文字が入っていますので、主は事業主、従は専従者です。夫が工務店の大工、妻が経理事務の場合、事業主は夫で妻は専従者ですが、普通に考えると、
大工である事業主の夫の所得 > 経理事務である専従者の妻の所得
となるはずです。逆は絶対におかしいですよね。また、所得の割合がほぼ半分ずつというのも違和感があります。この辺りの割合はケースバイケースです。
たとえば、同じような上記の工務店であっても、妻が経理事務だけでなく、現場に入って現場仕事も手伝っている。しかも現場の仕事も他の大工と変わらないぐらいの仕事量をしている。ということであれば、経理事務だけをしている妻よりも、所得は高くなる。と考えるのが自然です。
夫婦の所得割合については、今回の大工の工務店のケースであれば、
妻が経理事務のみであれば、夫9:妻1、夫8:妻2
妻が経理事務と現場仕事補助であれば、夫7:妻3
妻が経理事務と大工並みの現場仕事であれば、夫6:妻4
こんな感じでしょうか?この割合が絶対ではありませんが、実際の割合はどれくらい?という具体的な例としてご紹介しました。
届出額の箇所でも書きましたが、届出額は上限額の枠取りのようなものですので、実際に事業を始めたら、予想以上に事業主の所得が出ない場合もあります。
届出額の通りに専従者給与を支給した結果、「大工である事業主の夫の所得 < 経理事務である専従者の妻の所得」のようなアンバランスな配分は避けてください。
給与という性格上、遡って支給額を調整できませんので、この辺りの調整は毎月しっかりと試算表を作成して、損益を見ながら専従者給与の調整してください。
まとめ
専従者給与については以下のように考えます。
①まず届出額の上限額を超えないこと
②専従者の仕事内容から見て支給額が妥当かどうか?
③専従者給与の年間金額が事業主の年間所得に対して適正な割合となっているか?
社会通念上、常識の範囲内で専従者給与の制度をうまく活用してください。