「個人事業主の損益計算書には自分の給与が反映されていない」というのは当たり前の話ですが、それにより「結局のところ、自分の事業は本当に儲かっているのか?生活費はきちんと捻出できているか?」が損益計算書を見ただけではよく分かりません。
ですので、事業活動の結果を集計した損益計算書に加えて、ご自身の家事費用(プライベートのお金)を含めて判断する必要があります。
今回は個人事業主の家事費用を含めた「本当の損益分岐点」の計算について解説します。
まずは事業の損益計算書を作成する
まずは事業の損益計算書の作成です。これが無いと何もはじまりません。多少家事用の経費を突っ込んでいる・・・・ただちに訂正してください。確定申告の時期にしか作成しないという方は、多少面倒と思うかもしれませんが、毎月の試算表を作成してください。
特に年の後半になると去年の損益計算書とは数字の割合が変わっているケースが多いです。現状を反映した試算表ベースで年換算します。
なお、青色申告控除は実際に支出がない項目なので計算からは除外します。
所得控除金額を支払いベースに置き換える
次に確定申告書の所得控除金額(生命保険控除など)を実際の支払ベースの金額に置き換えます。生命保険控除などは控除金額に上限があるため、実際の支払った金額に変換する必要があります。健康保険など全額が所得控除されるものはそのままでOKです。これらを集計します。(確定申告書第二表に支払保険料等の計の金額を参照)
基礎控除や扶養控除などは実際には支出がないので、集計対象外です。
次に生活費を集計する
生活費というのは食費や光熱費、養育費おこづかい等々毎月の生活で支払っている全ての支出のことです。家計簿を付けていればすぐに分かると思います。配偶者のパート収入や子ども手当などの収入がある場合にはプラスします。
えっ?家計簿をつけていません?・・・ざっくりで構いませんので必ず生活費は把握してください。
計算の具体例
では簡単な具体例を使って計算してみます。仮に
①損益計算書 売上1000万円ー仕入400万ーその他経費200万円=所得金額400万円
②所得控除項目(支出額ベース) 健康保険50万円+年金20万円+生命保険10万円=80万円
③生活費 月々30万円×12ヵ月=360万円(本来は詳細に計算してください)
とします。この場合①の損益計算書ベースでは所得金額が400万円となっており、一見黒字に見えますが、冒頭でも書いた通り、個人事業主の給与部分が含まれていませんので②③を考慮する必要があります。
①所得金額400万円ー②所得控除項目(支出額ベース)80万円ー③生活費360万円=△40万円
・・・毎月約3.3万円の赤字です。お家の財布から少しずつお金が減っているということです。
個人事業主は損益計算書(決算書や試算表)だけ見ていてはいけないということがよく分かります。
具体例の本当の損益分岐点はいくら?
ではこの具体例の場合の「本当の損益分岐点」=お家の財布のお金が±0(プラスマイナスゼロ、減りも増えもしない)の状態はいくらでしょうか?
損益分岐点の求め方は逆に下から計算します。つまり③→②→①の順番です。
③生活費360万円+②所得控除項目(支出額ベース)80万円=440万円となり、①所得金額が440万円であれば、本当の損益分岐点は±0になります。
そしてこの440万円にその他経費200万円を足すと640万円となります。
具体例では売上1000万円、仕入400万円ですので、原価率は40%(400万円/1000万円)で粗利益率は60%です。
先ほど計算した640万円を利益率60%で割ります。640万円÷0.6=1,066万円が本当の損益分岐点の売上ということになります。売上が1,066万円あれば、おうちの財布のお金は増えも減りもしないということです。売上を年間66万円上げる必要があるということです。
売上を66万円上げるのが難しいのであれば、利益率を上げる、経費や所得控除項目を減らす、あるいは生活費を見直す必要があるということです。
また事業資金として借入返済が仮に毎月5万円あるとすれば、1066万円+5万円×12ヵ月=1,126万円が「本当の損益分岐点」となります。
本来であれば開業前にこの計算をしておけば、当初の売上の目安が分かります。仮に想定値が赤字だったとしても、貯金額と比較して「何カ月間は貯金の取り崩しで耐えられるか?」が分かります。これらを見て開業するしないの判断も可能です。
自営業の場合は売上や儲けの所得金額は毎年上下します。月ごとに幅がある業種もあります。それでもこのような「本当の損益分岐点」を計算することで、事業を継続していけるのか?の判断材料となります。
「うちのお店、利益は出てるはずやのに、何故か家のお金が貯まらん。むしろ減ってる。なぜ?」という方は、一度今回の「本当の損益計算書」を作成してみてください。