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記帳代行は税理士法違反か?

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税理士資格のない者がおこなう記帳代行は税理士法違反である。というのが私の主張です。

ネットなどではよく「記帳代行は税理士法違反にならない」と書かれていますが、私は間違っていると思います。

この「記帳代行は税理士法違反か?」という問題について、様々な意見があると思います。私自身も一人の税理士のとして、この問題についての意見を書こうと思います。

今回は専門的な用語や言い回しが難しい文章となりますので、興味がある方のみ読んでください。

なお、詳細は後述しますが、税理士資格を有する者がおこなう記帳代行は税理士法違反には該当しませんので、税理士事務所や税理士法人への記帳代行は安心して依頼してください。

今回、話題として取り上げるのは、税理士資格が無い者が経営している記帳代行会社についてです。

記帳代行とは?

記帳代行とは、個人事業者や法人の会計帳簿への記帳を代行することです。本来、会計帳簿への記帳は個人事業者自身若しくは法人自身(自社の経理部など)がすべき行為ですが、なんらかの事情でそれができない場合に、外部に依頼することになります。これが記帳代行です。

日々の会計帳簿への記帳は、青色申告などの各種優遇規定の要件となっているだけでなく、税務調査の際に証拠資料となる重要な資料にもなります。

パソコンによる会計処理をする前の時代は、簿記検定の帳簿組織と同じく、振替伝票などを書いて、各科目ごとに集計していました。

総勘定元帳の金額を試算表に転記、試算表の各科目金額を集計して、ようやく当月の利益が分かります。

簿記検定や簿記論の問題では、手計算で科目集計をして、試算表に記入していきますが、集計数が増えるほど金額の集計ミスが出やすくなります。

試験問題のたった数件の取引集計でさえ集計ミスが生じるのに、実務の数百件、数千件もの仕訳の科目集計と試算表の作成に、どれだけの時間と手間を要していたかと思うと、パソコンが無い時代の経理の仕事、記帳作業は大変な業務であったと思います。

これだけ大変な作業だと記帳代行してもらいたいという気持ちも分かります。

税理士法について

次に税理士法について確認します。(読みやすくするため、条文を簡略化して記載しています。)

税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談を行うことを業とする。(税理士法第2条1項)

 税理士は、税務代理、税務書類作成、税務相談のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。(税理士法2条2項)

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。(税理士法52条)

これらの条文から、税理士資格が無ければ、税務代理、税務書類作成、税務相談ができないということが分かります。

そして、税理士は付随業務として会計帳簿の記帳の代行ができると規定されていますので、冒頭でも書きましたが、税理士や税理士法人が行う記帳代行は何の問題もないということです。

さらに、税理士業務に付随する記帳代行について、「この『付随業務』は(税理士)法52条の独占業務には含まれず[( )内筆者加筆]」(注1)とされていることから、税理士以外の者が記帳代行をすることは、税理士法に違反しないと言えます。

 (注1)近畿税理士会制度部編『図解&条文解説 税理士法』(清文社、2015年)32頁

この様に税理士法の条文に規定されているのであれば、税理士資格の無い記帳代行会社が記帳代行をおこなうことについて、何の問題も無いようにも思われます。

しかし、実際には税理士法違反により税理士資格のない記帳代行会社が告発されるケースは数多く存在します。税理士会や国税庁も税理士法違反行為については厳しく取り締まっています。

実際に、私自身が近畿税理士会に登録する際に、面接時に「税理士法違反に該当するような税理士行為はしていませんね?」と何度も確認されました。いわゆる「もぐり税理士」をしていなかったかの確認でした。

次のブロックでは、議論の対象となっている「税理士資格がが無い記帳代行会社がおこなう記帳代行」について詳しく確認します。

記帳代行会社の記帳代行について

税理士資格のない記帳代行会社(以下、記帳代行会社と書きます。)のホームページなどを見ていると、税理士資格のある税理士事務所の記帳代行業務とほとんど同じ内容であると言えます。

そして、記帳代行会社のホームページ内でよく見る文言が、「税務に関する事項については、提携する税理士に確認しており、申告は提携する税理士に依頼しています。」という感じの説明文です。

提携税理士に確認しようがしまいが、税務相談を受けているので、税理士法違反です。

「……、具体的事実に立ち入らず、一般的に税法の内容を説明し、これを解明することは税理士業務の範囲外となる。」(注2)が、顧客からの具体的な税務相談を受けることは、税理士業務です。

 (注2)近畿税理士会制度部編『図解&条文解説 税理士法』(清文社、2015年)30頁

また、申告を依頼するのは納税者自身です。恐らく、申告書の作成までを記帳代行会社がおこない、提携する税理士が申告しているのだと思います。申告書作成は税理士業務である税務書類作成に該当しますので、記帳代行会社が申告書を作成している時点で税理士法違反です。そして、明らかな名義貸しに該当し、提携税理士も税理士法に違反します。

「提携税理士」のようなワードが入っているような記帳代行会社のホームページは、間違いなく税理士資格の無い記帳代行会社です。

税理士業務に該当するか否かが争点となった裁判例

このブロックでは、どのような行為が税理士業務に該当するのかを裁判例を通じて確認します。

裁判例は裁判所が書いた文章なので、やや読みにくい箇所もありますので、その点ご了承ください。

平成19年(わ)第206号 税理士法違反被告事件、神戸地裁の裁判例です。以下、一部を抜粋します。(読みやすくするために、文章の途中で改行しています。)

「税理士法2条における税務書類の作成とは,租税に関し,税務官公署に対する申告等に係る申告書等を自己の判断と責任に基づいて作成することをいい,単なる清書や代書等の機械的作業は含まれないと解すべきところ,

上記2の認定事実,特に,部員等が日頃から会員の経理業務に関与し,会員の決算期前には経理関係書類を預かるなどして決算報告書等を作成し,これらを基に申告書類を製作していたこと,会員の中には税法上の知識がほとんどない者もいたこと X経理室が会員から決算期に特別会費を徴収していたこと ,被告人が部員等の製作した申告書類を点検の上決済していたこと等によれば,被告人において,自己の判断と責任に基づいて申告書類を作成していたと認められる(被告人は,同特別会費はX経理室の維持管理費であり,申告書類作成の対価ではない旨供述するが,その徴収の時期や額等からして,申告書類作成の実質的な対価を含むものと認められる。)。

この点につき,弁護人は,X経理室ないし被告人が会員に行っていたのは決算報告書の作成等の税理士法の禁じていない経理会計のサポート業務であり,申告書類の製作はその一環として税務ソフトを使用して行う機械的作業にすぎず,申告書類は会員の判断材料として提供する草案ないし準備的書類であるなどと主張する。

しかし,決算報告書等の作成が経理会計業務だとしても,決算報告書等の項目中の金額を前提として,税務ソフトを用いて申告書類を作成する場合,一般に,作成者において,同ソフト上で算出された特定項目の金額に特段の疑義がなければこれをもって同項目についての自己の判断とする意図であることは明らかであり,殊に本件において,被告人は上記のとおりその指揮監督する部員等が製作した申告書類を点検し,責任者として決済していたのであるから,

被告人の行為が税法上の判断を要しない機械的作業であると評価することはできない。会計経理処理と税務処理とを峻別すべきとする弁護人の主張は,その前提を異にし,採用の限りではない。」

長い文章でしたね、では少しずつ確認していきます。

まず裁判例では、税理士法に規定する税務書類作成とは、自己の判断と責任で作成することで、単なる清書や代書などの機械的作業は含まれないとしています。(同旨、税理士法基本通達2-5)

そして、最後の部分では

「 ・・・,一般に,作成者において,同ソフト上で算出された特定項目の金額に特段の疑義がなければこれをもって同項目についての自己の判断とする意図であることは明らかであり,・・・ 」

と判示しています。

この裁判例では、被告人の申告書作成業務が税法上の判断を要しないか否かで争われました。同じことが会計ソフトの入力業務においても、言えるのではないか? 記帳代行をおこなう際に全く税法上の判断を要しないのか? ということです。

つまり、記帳代行会社が顧客から預かった出納帳などの資料について、

科目や金額などを会計ソフトに入力する際に、自己の判断によってそのままの科目や金額を入力するのか?あるいは、別の科目に訂正したり、追加で仕訳入力するかどうかの判断を必ずおこなうはずだということです。

顧客が何も処理していなければ、科目や金額などの処理は当然自らの判断によって処理することになります。

単なる代書や清書としての作業とは異なります。

仕訳入力時に消費税の課税区分についても、同様の判断をするはずです。

なお、この裁判例では決算期の特別会費が実質的に決算申告報酬と判断されました。同様の報酬料金をもらっている税理士資格の無い記帳代行会社も案外多いのではないかと思います。

会計ソフトの入力は税務上の判断をしていないという意見に対して

記帳代行(=会計ソフト)の入力は単なる入力作業であって、税務上の判断をしていないという意見がありますが、この意見に対しての私の反対意見を書きます。

税理士法2条2項(付随業務)の規定が設けられた趣旨は、「租税法に基づく税務計算が、企業の経理処理に関する知識を踏まえてその基礎の上に租税法に定められた納税義務の計算を行うものであり、税理士の実際上の業務は、財務書類の作成や記帳の代行と極めて密接な関連があり、これらの業務と併せて税理士業を行っている実態にあるため、・・・税理士業務に付随して会計業務を行うことができることを、確認的に明らかにすることにより、・・・」(注3)とされています。

(注3)近畿税理士会制度部編『図解&条文解説 税理士法』(清文社、2015年)32頁

上記の通り、会計と税法との関係は密接であり、法人税法おいても、74条の確定決算主義や22条の公正処理基準が規定されています。所得税においても、事業所得に関しては、法人税法と同様に決算書の各金額を基礎としています。

さらに、税理士が関与する法人のほとんどが中小企業であり、中小企業の経理処理においては、基本的に税務上の処理と差異が出ないような会計処理(申告調整項目が少なくなるような会計処理)がされます。

この様な処理をしているため、会計ソフトへの入力をすると同時に「この処理で税務上、問題はないか?という」税務上の判断をすることとなります。

顧客側が会計ソフトで入力している場合、記帳代行会社がその入力データをチェックすることとなりますが、チェックの際に必ず税法上の判断が入ります。

記帳代行が単なる清書や代書であれば、顧客が処理できなかった複雑な取引について、何も処理しないことになります。間違った仕訳であっても、そのまま会計ソフトへ入力することになります。税務上のチェックをせずにそのままの間違った内容の試算表を作成することになります。

はたして、記帳代行会社はその様な試算表や決算書を顧客に渡せるでしょうか?

また、依頼者はその様な試算表の作成を望んでいるでしょうか?

記帳代行の業務で会計ソフトへの入力仕訳のチェックをするということは、顧客の個別の事案について、「この処理で税務上問題ないですか?」と具体的な税務相談を受けているのと同じ状態です。

顧客が何の処理もしていない丸投げの状態であれば、「この取引の税務上の処理が分からないので、どうしたらいいですか?」と聞かれているのと同じ状況です。これも具体的な税務相談であり、税務相談は税理士しか受けることができません。

税理士法に違反しない記帳代行は事実上存在しない

色々と長々書いてきましたが、私が考える税理士法に違反しない記帳代行というのは「単なる清書や代書としての記帳代行で、税務上の判断を一切しない場合に限る」ということです。

前のブロックで書いた通り、実際にはその様な「税務上の判断を一切しない記帳代行」は存在しないです。そして、税理士資格の無い記帳代行会社も税務相談を受けており、税務に関するアドバイスも必ずおこなっているのが実情です。(そのアドバイスが間違っているというケースが多いです。)

「当社は税法に関する処理を一切しない記帳代行をおこなう会社です。清書や代書のみの記帳代行の処理は承ります。税務に関する相談は一切受け付けませんし、税務調査も対応できません。」・・・この様な文言が書かれた記帳代行会社のホームページを見たことがありません。

税理士法2条2項の記帳代行(狭義の記帳代行)は税理士の独占業務でないため、税理士資格を必要としないが、実際の記帳代行(税務上の判断を伴う記帳代行で世間一般に言う記帳代行、税務に関する具体的なアドバイスや相談も含む)は税理資格を有する者でなければ、することができないと考えられます。

ちなみに、西新宿の齋藤幸生税理士のブログでは、「税務上の判断を一切しない記帳代行」のことを「狭義の記帳代行」という表現をされています。私も同じ意見です。広義の記帳代行ができるのは税理士のみです。

記帳代行 = 清書や代書としての記帳代行 + 税務上の判断 です。

ですので、税理士資格を有しない者がおこなう記帳代行は、税理士法違反に該当するというのが私の結論です。

確かに手書きの時代は記帳代行も需要があったと思います。実際に税理士事務所も記帳に割く時間も多かったはずです。

現在は会計ソフト導入により、記帳に要する時間は減少しました。今後はAIの導入により、記帳する時間自体が無くなります。(会計データを扱ったり管理する業務に代わります。)

そうなれば、その記帳された試算表などを資料とする税務相談に時間を割くが増えます。そして、税務相談は税理士法に規定されている通り、税理士しかできません。

現在記帳代行を頼んでいる方は、自社の確定申告書の関与税理士欄に書いてある名前を確認してください。会ったことのない人の名前だったり、空欄になっていませんか?

繰り返しになりますが、税理士資格を有する者がおこなう記帳代行は税理士法違反には該当しませんので、税理士事務所や税理士法人への記帳代行は安心して依頼してください。

今回の記帳代行に関して、相談や質問があれば、問い合わせフォームよりお問い合わせください。

最寄駅 JR藤阪駅から600M(徒歩8分)

最寄駐車場 東洋カーマックス藤阪中町駐車場190M

タイムズ王仁公園第1駐車場から450M

(東洋カーマックス藤阪中町駐車場が最も近いです。タイムズ王仁公園第1駐車場の方が空いています。)

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